大正15年に文芸社より発刊された「全国名所めぐり」より、「神戸」というセンテンスより。尚、旧仮名遣いと旧字体は可能な限り現代表記とした。
<神戸>
市内に三宮、神戸、兵庫の三駅がある。生田神社は三宮駅の東北五町にあって、社後の森林は生田の森といい寿永の役の梶原源太箙の梅の風流は、有名なことで、形見の梅は境内にある。生田川の源流、布引山の半腹に、二條の瀑布が懸かっている。駅から半里、瀧の上方を滝谷といい、一條の幽澗また探遊に値する。諏訪山は北十二町で山口には諏訪明神があり、眺望は展けている。東麓に温泉があり、布引と共に此の地の二遊地である。摩耶山は六甲山中の一峻嶺で、東北一里十町、山頂には利天上寺があり、。大阪湾の風光を恣にす。阪神の人は夏季に、秘書の計をここに取る。湊川神社は神戸駅から北一町、殿廡門垣の結構は荘厳である。長松の下に碑がある。高さ一丈、これが水戸黄門の修せられし「嗚呼忠臣楠子之墓」である。社の北の広厳寺は俗に楠寺といい、正成が一族と共に自刃した所と伝え、今尚遺物がある。正成の敗れた旧湊川の流域は、今改修して一帯遊園地を拓き、堤上に花樹が植えられている。
兵庫の西南端の海中に突出している海浜を和田岬といい、岸頭旧砲台及燈台がある。海を隔てて紀泉の翠黛と相対し、淡路島が手を伸せば捉えられるようだ。展望秀絶市第一の名勝である。