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ノスタルジック解説ブログ

伊東の夏と海水浴【大正8年「伊東及附近」より】

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伊東の夏と海水浴【大正8年「伊東及附近」より】

この文章は、大正8年に発行された「伊東及附近」の内容です。又、旧字や現代では使用しない漢字、旧仮名遣いなどは読みにくいために、現代様に改めました。


伊東の夏と海水浴

 伊東は冬の所であり、また、夏の所である。冬は名物の西風の吹かぬ限りは暖かで、平均温度華氏五十五度を保ち、一月の初旬に梅を見る事が出来る。夏は海近く、山を負うているので、涼風常に湯村を訪れ、海辺に山陰に涼を追うに多くの勝景がある。瓶山(かめやま)における松林のつるね、玖須美公園の蝉時雨、吾妻の森の潮声、又は御岳、瀧ヶ澤、何れも時を費やさずして行くことが出来る。

 五月から九月にかけては、鮎釣りの好機で、松川流域、どこでも釣れる。又、ボラ、黒鯛、鯵、鰻、カジキ、ハゼなど何れも大きなものが釣れる。これ等は冬の伊東に見られぬ興趣の一つである。

夏になると、海岸二箇所に海水浴場が設けられるので、温泉を兼ねて、来浴するものが多く、教師に引率された、中学生等も毎年見える。

○海水浴の効は今更云う迄もなく、海水の冷たさより受くる亜悲劇、含有する塩分が及ぼす作用、波涛の動揺による内臓の観応等によって、第一に皮膚を丈夫にして風邪を引かぬようになることは確かである。又、冷たさの為に脉管(みゃくかん)の末梢が俄に収縮して一時血行が止まるので、内臓に血が充満すると同時に、血液循環が盛んになる。従って代謝機関がこう進して、体温の発生を促進する。又、食欲の増進が著しくなり、一方、尿素の分泌が増すのである。

○海浴場は、玖須美海岸の八幡神社の後ろに一か所と、松川橋を湯川の方へ渡ってすぐ右へ折れた突き当りの松原海岸に一か所設けられる。何れもバラック式の休憩場が建てられ、脱衣室、脱衣駕籠、洗体所等設備される。両所共に個人の経営であって、一回金三銭の浴料をとる。又、浮袋、浮き輪、海水シャツ等も僅かの料金で貸してくれる。尚、小形のボート十余艘が用意してあって、時間貸しをする。一時間二十銭と覚えている。

伊東の海はやや遠浅で、四十間ばかりの沖で満ち潮時、一尋半位、岸近くでは幼童でも手をついて這うことができる。波は比較的動揺が緩やかで、清澄ショウショウのごとく海底は貝殻小石が一つもない。極めて安全である。浴場は浮樽と旗綱とを以て監視区域を画し、男女の混泳を禁じてある。

○開場機関は、毎年七月一日から八月二十一日まで、六十一日間開かれる。

○質素な海水浴 海水浴場は兎角虚栄の集会所のような気分に陥りがちである。見たこともないような奇形の浮袋、鎧の様な浮き輪、善美を尽した海水着、定紋や名を入れた占有のボート、または一人の為に三人の女中を召具するという様な不快な気分は伊東の海水上には絶無である。すべてが質素で海水シャツを着くる者さえ数える程で、手拭の頬かむりで飛び込むという様である。されば風儀が良い事は大いに誇るべき点で、多い時でも百五十人を数えた事が無い。

○海水浴に就いて注意すべき事は、朝夕は壮健なる者のほか、海浴してはならぬ。日中十一時から三時半位迄がよい。水浴時間も一回五分から四十分くらい、一日三回位を度とする。唇を紫いろにして肌に粟を生ずるという様なことは害あるとも益は無い。男であったらまず頭部に二、三回水をかけて海に入ると、腸の為に大変よい。頭部だけ炎熱に焼かれて五体を冷やすということは面白くない事である。また、消毒綿(浴場にあり)を耳穴につめておくと、耳症を予防することが出来る。



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