この文章は、大正10年に刊行された「三府及近郊名所名物案内」の内容です。又、旧字や現代では使用しない漢字、旧仮名遣いなどは読みにくいために、現代様に改めました。
上野公園
面積二十五万二千坪、東京一の大公園である。下谷区の西北部に位し、昔は忍ヶ岡と称えて、地勢高燥老樹蓊欝、中に櫻樹を雑えて花時の眺めは絵も亦、如かない。陵下には不忍池の水郷を控えて山水の勝景に富むだのは外に求めても得られない本公園の特色である。
園内帝室博物館、動物園、東照宮、徳川霊屋、清水観世音、弁財天祠、大仏、鐘楼、忍ヶ岡稲荷祠、帝室図書館、東京美術学校、西郷隆盛銅像、彰義隊碑等あり、四時を通じて遊客の裙履を絶たない中にも、艶春三月花の消息は、園内清水堂前の彼岸櫻を以て、例年劈頭第一とし、満都の綺羅を傾ける賑わいは迚も想像の外である。