この文章は、大正15年に発行された「上毛の温泉」の内容です。又、旧字や現代では使用しない漢字、旧仮名遣いなどは読みにくいために、現代様に改めました。
(4)遊覧の温泉
幸いに病もなく療養の必要はなし、避暑と云って永く滞在することなど出来ない忙しい人が、一日二日の休暇を利用して、楽しいピクニックをするのに、極めて適当な温泉も少なくない。春夏秋冬、各温泉地は湯煙心地よき湯はもとより、何れも明るい日光と新鮮な空気、秀麗な山水と幽しき湯の町情調とを、常に多分に有して居るのであるが、これに四季とりどりの景物が添えられるのである。
東京より一泊二日位で、容易に、手軽に行楽できる温泉の四季の特色と経費の概略とを挙げてみよう。
(1)伊香保温泉
東京より約五時間、経費一泊二日で八~九円。団体なら約六~七円位で往復できる。
四季を通じて趣が多い。春は桜に新緑、わらび狩り、夏は榛名登山、湖に蛍、杜若あり。山に白百合、鈴蘭あり。秋は満山の紅葉、登山に最もよし。冬はスキーにスケート。
(2)磯部鉱泉
東京より約四時間、一泊二日で約六~七円。団体なら五~六円位で遊べる。
妙義山に四季とりどりの趣が多いから、此処も四季趣がある。春は桜、妙義の新緑、夏の妙義もよし。秋は妙義の蜃気楼に紅葉、碓氷峠の紅葉、冬は雪見に湯豆腐の味。
(3)藪塚・西長岡鉱泉
東京より約四時間。経費一泊二日で五円位。
平野の湯として春夏秋が最も面白い。殊に太田に子育ての呑龍あり、金山あり。呑龍参詣を兼ねて遊ぶによい。
東京より二泊三日を費やせば、大抵の温泉に遊ぶことができる。
(4)草津温泉
東京より約九時間。二泊二日で十四~十五円あれば往復出来る。
春は落葉松の若葉に石楠花、つつじ、夏は白根登山、高原気分の最も味わうべき時。秋は紅葉に、冬はスキー。
(5)河原湯温泉
東京より八時間。二泊三日で経費約十三~十四円。
春より夏は関東耶馬渓の新緑、深緑に河鹿の声。秋は紅葉。
(6)四萬温泉・澤渡温泉
東京より八時間。二泊三日で十四円~十五円位。
春は新緑に河鹿、夏は雲煙の変化特に面白く、秋は紅葉。
(7)梨木鉱泉と赤城登山
東京より赤城大洞迄一日、二日目は山に遊びて梨木に下り一泊。二泊三日で経費約八円。
梨木にも特別の趣はあるが、赤城は四季何れも面白い。五~六月の交、石楠花、躑躅に始まって、秋の紅葉、冬のスキー、スケート迄、趣がつきない。
(8)湯宿・湯島・法師温泉
東京より八時間、二泊三日で十円位。
三日間で三湯をめぐることができる。春夏秋冬通じて渋川から先の景色も面白いし、温泉の自然もきくすべき趣が多い。仙境といったような気分が常に漂っている。
(9)湯原・谷川・湯檜曾温泉
東京より十時間余り。二泊三日で十二~十三円。上越線開通せば七時間。経費七~八円に減ずることができる。
汽車の沿道の景色を眺むるだけでも面白い。然も冬はスキー、秋は紅葉に狩猟に、春夏亦山の気分を十分に味わうことが出来る。