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ノスタルジック解説ブログ

温泉郷吾妻・草津温泉➁【大正15年「上毛の温泉」より】

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温泉郷吾妻・草津温泉➁【大正15年「上毛の温泉」より】

この文章は、大正15年に発行された「上毛の温泉」の内容です。又、旧字や現代では使用しない漢字、旧仮名遣いなどは読みにくいために、現代様に改めました。


(一)草津温泉

(5)泉質効能
 現代の進歩した医学を以てしても、手のつけようもない痼疾を、拭うが如くに癒して、天寿を全うするの幸運を得たものは何万か数え得べきことではない。薬石の力及び難き所、シバヘンセキも匙を投げた所、これを引き受けて自然療法を以て救うには、天下温泉多しと雖も、我が草津ほど凡ての条件を具備した所はない。これは決して我田引水ではない。事実が雄弁に語る何院も否み難き現実である。

 温泉そのものの特質が卓越して、正に宇内に冠たることは、ベルツ・スクリッパ等の大学者の確認する所であるのみならず、空気療法・高山療法・日光療法等に於いても極めて卓出した美点を備えている。

 即ち海抜四千尺の幽邃地であるから、空気の清潔なることは無論の話、満山の翠緑の為めオゾーンに富み、硫黄泉は、盛んにラジウムエマナチオン、即ちラドンを放散する。空気療法は実に完全に行われる。

 日光療法の効果に就いても、既に学界には定説があって、其の中でも、紫外線の人体に及ぼす効果は、特に偉大なものがある。山岳写真を撮るものを常に悩ますものは、その放射する紫外線であることが明証するが如く、日光浴の為には、三千尺以上五千尺の所が最も適当とされていて、アルプス山腹の裸体生活によって、各種の疾病を治療するもの、比年その数を増すと報告されているに徴しても、海抜四千尺の草津は、日光浴場としても最適地たること議論の余地がない。草津が療治の効果卓越しているのは、温泉の特質に加えて、以上の各種の要件悉くが相合して浴客の体に作用するからのことである。草津の住民で七十歳以下で死ぬもの殆ど稀であるのは、伊香保が伝染病患者を出さぬと好一対の衛生保険上の一驚異である。ギリシャの大哲ヒポクラテスは、「自然は最大の良医である」と喝破した。良医か!良医か!健康が人生尾最大の至幸とすれば、誠や草津は人生最大幸福の産出地である。

 霊泉草津を讃美した文献は非常に多い。前述のベルツ博士は曰く、
「草津はただにその湧出の量最大なるのみならず、理化学的療養地として適当なること、日本全国にその比を見ず。」

 医学博士中島守信氏は曰く、
「草津は世界無比の御瀬なり。其の成分中許多の遊離硫酸と遊離塩酸を含有するを以て、皮膚を強壮にする効顕著なり。云々」

医博土肥慶藏氏は曰く、
「温泉は多く言おうと遊離散とを含む。温度極めて高く、山川の秀麗、空気の清澄、実に海内無比と称するも誇張に非ず。地は交通便に、食物飲料皆新鮮にして体に適す。況や山水の秀麗、空気の清澄なるに於いてをや。その沈痼を治し、宿痾を療すも又怪しむに足らざるなり」

医博濱田玄達氏は曰く、
「僕は慢性の神経痛で学術の限りを施したが治らんので、試みに草津へ入浴したら痼疾は忘れてしまった」

 古にしては安積艮齋・平澤旭山、今にしては志賀重昻・大町桂月始め、文人墨客の紀行に至りては、汗牛充棟もただならぬ。十返舎一九も有名な膝栗毛では、弥次郎・喜多八をこの湯に浴せしめている。何れも草津の真価海内一なることを明らかに裏書きしている。

 尚、温泉地で所謂効能と宣伝しているものを挙ぐれば、
 劇性粘液漏・慢性カタル・梅毒性潰瘍・慢性皮膚病・淋毒性諸症・神経痛リウマチス・神経衰弱・ヒステリー等。


(6)旅館
 草津の町は、湯畑と称する温泉の湧出場を中心に放射状に発達して、立派な市街を形成している。旅館の数六十四戸、他は悉く浴客中心に経営されているのであるから、何を便ずるにも少しも不都合はない。

 旅館の建築は、大抵二層、三層の高楼で、規模も大きく、清潔を旨としている。各旅館皆数個の内湯を有し、適当な温度のものに入浴出来る。宿泊料も極めて廉く、希望によっていくらでも簡易な生活が出来る。

宿泊良並び滞在費
一等 二円五十銭以上 外に滞在の場合は湯銭一日十五銭
二等 二円
三等 一円五十銭
四等 一円二十銭

 相当な娯楽機関も完備しており、春夏秋は、探訪すべき勝地が沢山にあり、冬はスキー、スケートが出来る。皆浴客に対して親切第一を標語としている位であるから、何日居ても倦怠を来すようなことはない。

 草津よい所 一度は御出で ドッコイショ
 お湯の中にもコリヤ 花が咲くヨ

 明日はお立ちか お名残惜しや ドッコイショ
 雨の十日もコリヤ 降ればよいヨ
 チョイナチョイナ

 哀音切々たる草津節の情味、馴染み重ねた湯女の心意気は、又草津民の浴客に対する情感でもある。宿の居心地は之もここの一特色である。


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