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ノスタルジック解説ブログ

十三種の人種雑居す【明治42年 「樺太探検記」より】

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十三種の人種雑居す【明治42年 「樺太探検記」より】

この文章は、明治42年に刊行された「樺太探検記」の内容です。又、旧字や現代では使用しない漢字、旧仮名遣いなどは読みにくいために、現代様に改めました。


十三種の人種雑居す

 脚下には一体の銀流広潤なる大平原を幾旋廻して海に注ぎ、遥かに瞳を東に放てば、幾層の連山ことごとく鬱蒼たる密林を以って蔽われ、ここに一個の大陸的壮観を展開せり。

予「精君、ここは何というところです。我々は既に露領に入ったのですか?」

精「否、日本領は日本領ですが、余程国境近くへ来てしまいました。今丁度、私たちの真下を流れている大きな河が幌内川で、あの河口に在る市外は敷香です。昨年から敷香支庁が置かれましたが、支庁長の成富という男は、国境画定事業に就いちゃ馬鹿に働いたもんでな。この男が居なかったら、ああ早く都合よくは行かなかったんです。ところが、論功行賞の時になると画定委員は面々勲章をもらったが、成富だけは何の御沙汰も無かったので・・・」

予「怒ってるんだね」
精「元来酒ばかり飲んでいる呑気な男ですから、怒っちゃいませんが、側で見ていた我々が大不承知なんで、このごろに、大島少将のところへ厳談を申し込むつもりでいまさ。」

大分話が横道へそれるようなので、予は精に望遠鏡を渡しつつ、鹿の番をしている彼の異様な人種は何物かときくと、

精「あれはオロチョンにギリヤークという未開人でmいわゆる水草を逐って漂泊する遊牧民の一種でポロナイ川に沿うたあの大平原が有名なツンドラと呼ぶ泥炭地で、北境にはよく、こういう土地があります。オロチョンやギリヤークはここでトナカイを飼っているのです。」

予「それはかえって幸いだ。ここへ一寸降りてみたいがどうだろう」
と相談に及ぶと、協議たちまち一決して、静かに空中飛行器を降ろした。其の間に精は説明して曰う。

「この寒帯の小孤島たる樺太には目下十三種の異人種が雑居しています。なかなか集めようたて、こう人類学の標本室の様に集るもんぢゃありませんぜ。ギリヤーク、オロチョンの外に、土人としては樺太アイヌ、トングース、サンダー、外国人には清国人、韓国人、ロシア人。このロシア人という中には本ロシア人、オランダ人、ポーランド人、トルコ人、猶太等が一からげにしてあるんですから、これで都合十二種、それに日本人を加えれば十三種になります」

予「人口はみんなわかっていますか?」
精「わかっていますとも。御覧に入れましょう」
とポケットに手を突っ込んでしきりに探していたが見つからぬ様子。

予「無いんですか?」
精「いや、有るにや有りますが、生憎古い統計した持ち合わせないんで、どうもすみませんが、これで我慢して下さい。」
と取り出した手帳を繰ると鉛筆の文字は薄らいで最早消えそうになっている。



予「しかしよくこんな処まで調査が行き届いたものだね」
と少なからず感嘆すると、精は急にくすぐったいような顔をして、ごく小声で、

精「あんまりアテになる数ぢゃないかもしれませんぜえ」

この時飛行器はポロナイ川の岸に降りた。するとこれを見て五~六人の土人は口々に何かぶつぶつ言いながら、恐る恐る近づいて来た。


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