この文章は、大正7年に発行された「広重五拾三次現場写真対照」の内容です。又、旧字や現代では使用しない漢字、旧仮名遣いなどは読みにくいために、現代様に改めました。
第八 平塚(相模)
平塚は相模国中郡の町にして相模川と花水川との間なる海浜に在り。藤沢より三里十七町、大磯へ三十町、今東海道線の停車場を設く。此処より北方に向い伊勢原町を過ぎ上粕屋に至る三里余の道には人力車を通じ尚二十町にして大山町に達し更に登ること二里弱にして大山に達す。頂上に阿夫利神社あり大山祇命を祀り毎年七月の大祭には遠近より来賓するもの頗る多く、平塚は恰も其の通路に当たるが故行人雑閙し、又海岸の風光佳なると相模川鮎漁の興あるとを以て夏日来遊の客少なからず。
広重の図は此の町の郊外を流るる花水川に架せる花水橋の此方より高麗山及び富士の遠景を眺めたる光景にして、写真に於いて見るが如き高麗山の姿を飄逸なる広重の彩筆が形をかしく描き出せるなど却々に興深きものあり。