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人の気付かぬ金儲け【大正6年「東京の解剖」より】

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人の気付かぬ金儲け【大正6年「東京の解剖」より】

この文章は、大正8年に刊行された「東京の解剖」の内容です。又、旧字や現代では使用しない漢字、旧仮名遣いなどは読みにくいために、現代様に改めました。


九 資本のいらぬ 人の気付かぬ金儲け

 東京には色々の商売がある。然し資本が無くて出来ぬものがあるから、ここには無資本者の為に、赤手空拳、僅かに二銭五厘より一円以下で出来る、そしてあまり人の気付かぬ類の少ない金儲けを紹介しよう。


二銭五厘で開業

 わずかにバット五本の資本でできる金儲けとは何であろう。即ち畳の表の古ぼけて薄黒くなったのや、シミが出来て通常に見難くなったのを、薬品の作用で殆ど新物同様きれいにする新職業である。
△方法
 薬舗でシュウ酸十匁二銭五厘で買い求め、それを約一升の水に溶かし、其の汁で雑巾なり古手拭なりを絞り、畳の目なりに拭くのである。ただしシュウ酸は劇薬であるから、よく使用の目的を書いて印形を捺した書付を持たぬと薬舗で売ってくれぬ。
△収入
 仮に一畳の拭き代二銭とすると、一日少なくとも六十銭位拭き上げられるから、先ず一円二十銭の稼ぎが出来る。そこから原料代を差し引いて一円十七銭五厘の純益が見られる訳だ。


資本三銭の金儲け

 金襴たる商店の金看板や、理髪店の銀の鏡の縁などが、塵埃や蠅糞の為に汚れて醜悪になったのを、以前のように綺麗に拭き取る職業であるが、之は必ずしも商店や理髪店のみに限らず、普通の家庭でも需要があろうと思う。
△方法
 玉葱を潰して汁を絞り、それを布片に浸して目的物を拭き清めるおで、そうすると全く新しいままの光沢が出る。玉葱二銭古布一銭もあれば誰にでも出来る。
△収入
 面積の大小により、それぞれ拭き代に相違あるが、普通理髪店の鏡縁一個の拭き代五銭として、二十個位は楽に拭けるから原料代を差し引いて一日八~九十銭の純益はある。


五銭で出来る新職業

 僅かに五銭で出来る新職業は、裁縫用にする形紙作りである。この形紙は裁縫に用いるばかりでなく、染織用絞形、地形などにも需要があるが、ここには最も需要の多い福巾着、涎掛、エプロン等を挙げる。
△方法
 呉服屋で不要の文庫紙を四枚一銭で買い求め、それを型に合わせて切り、その切り屑からまた装飾の分を別に小さく切り取って、前に切った紙に糊付けにすれば、四枚で二十個の型が出来る。そして五色の絵具を三~四銭で買って、型の表面に松竹梅などの絵を描き、裁縫教授の家や、序格好などへ一個二銭で売りに行くのである。勿論戸毎に廻っても見込みはあるが、相手が婦人だけに、婦人の内職として最も有望であろう。
△収入
 仮に一日の売上高二十個とすればこの代金四十銭、五銭の資金を引いて三十五銭の利益である。之は売上に十個を標準としたのであるが、少し活動すればその三倍位売れるから一円内外は得られる。


十銭で一円の利益

 十銭の資本で一日一円の儲け仕事は象牙拭きである。象牙は種々の細工物に用いて頗る珍重されているが、惜しい哉、長く使用すると自然に黄色くなって、甚だ見栄えがしなくなるものである。それを薬品の作用で、元の如く純白にするんは、一寸考えても歓迎されそうの職業ではないか。
△方法
 材料と言っては明礬と、古毛布の破片と麻布の一辺とである。そのやり方は明礬を湯で濃く溶き、それに目的物の象牙を一時間ほど浸しておき、時間を見計らって明礬液から取り出すと同時に、古毛布の片によく拭き取り、麻布に包んで乾かすと、見違えるばかりに純白となるのである。明礬液は勿論一回限りのものでない。仮に明礬七銭、古毛布の破片一銭、麻布二銭、合計十銭を投すれば優に一円以上の仕事が出来る。
△収入
 品物の大小にもよるが、印形位の小さい物は一個三~四銭、大きい物であれば、二~三十銭から四~五十銭。之は老人でも婦人でも誰にでも出来る職業である。


額の少ない新職業

 資金十五銭の裁縫屋、之は中学生等を当て込みに、学校の小使室あたりに出張して、休み時間を利用し、生徒の服の綻びや、釦の付け替えを修理する職業である。少し範囲は狭いけれど、その代わり学校の小使に旨く取り入って、成るべく多くの生徒を紹介して貰えば、存外儲かる商売であろうと思う。
△方法
 全然不器用の者でも困るが、少しく指先の利く者ならば誰にでも出来る。先ず針と縫糸が三銭、それに学校制定の釦が二十個で十二~三銭、これだけが資本である。
△収入
 一人の修理分三銭宛として、一日三十人の客があれば九十銭、四十人なら一円に十銭である事が言うまでもない。


資金二十銭の有利業

 二十銭の資金があれば今からでも出来る商売、それは物の包みなどを結わく源平紐の心棒を買い集めるのである。雑貨店、呉服屋、菓子屋等、この平紐を使用する商店は日に月に増加して行く。繁盛する店になると、一日五~六個の枠を空ける所も珍しくない。それを戸毎に買い集め、更に平紐の製造所へ纏めて持って行って売るのである。
△方法
 この空枠には大きいのも小さいのもあって一定しない。けれども無代で貰う位安価に買い受けるので、平均一個五厘と見たらいい。大商店などでは一ヶ月もすると、百数十個も溜まって、その始末に困るほどだから、殆ど値段の駆け引きなく、幾らでもいいから持っていけという風である。
△収入
 一所で百個二百個と纏めて売ってくれる店もあるが、普通は五本か七本位、一日百本集めるのは容易である。一本平均二厘か三厘さから、資金の二~三十銭もあれば誰にでも出来る。そこで平紐も製造元では木地値段の四割ないし五割引きで買い取ってくれる。木地相場は一本二銭内外であるから、五割引きとして一本一銭、百本一円。資本の二十銭を引き取って八十銭の純益となる。


確実有利の新事業

 右の空枠買いと好一対の廃物利用的営業は、ハンダロー取りである。これは缶詰などの空き缶を買い集めて来て、その継ぎ目に付着しているハンダローを取り集めるのである。残余のブリキもまた金になるから妙である。そしてハンダローは金物屋へ、ブリキは下駄の鼻緒の裏に打ち付ける梅の花形を作る。それを専門のブリキ屋へ売るのである。
△方法
 缶詰の空きは料理屋や旅館などと特約して、買い廻ったならば至極結構であろうと思う。それに二~三銭投じて炭俵の空きを五~六俵買い来たり、凸凹のない平たな空き地に、その空き俵を燃やして、其の中へ二百個の空き缶を一度に投げ入れて盛んに焼くのだ。すると缶の継ぎ目に付着したハンダローは次第に溶解して、地上に落ちて一塊りとなる。ブリキは又、一々揃えて束にする。
△収入
 二百個の空き缶から大概二百匁内外のハンダローが採れる。その相場は無論時事変動があるけれど、百匁四十銭から四十五銭に売れる。内輪に見積もって二百目の八十銭。それにブリキがに十銭になる。それで合計一円。その中から二十二~三銭の資金を引き去って、七十五~六銭の純益である。


資金六十銭の新事業

 之は手帳に類似した一種の新案意匠物である。先ず紙製石盤の代用として格好の物であろう。小学生の筆算用、台所帳、電話室の備え付けなど極めて需要の道が広い。一面に真っ黒い紙で、鉛筆や先の尖った骨筆で書くと文字が白く表れる。その紙を火に炙ると、再び元通りの黒紙に返る。かくして幾回でも使用の出来るのが此の手帳の特色である。
△方法
 その黒紙の製法は別に面倒なことはない。先ず屑屋から古雑誌を十銭程求め、一枚一枚綴じ目をバラバラにほぐして、一面に濃い墨で塗りくるめてしまい、乾くのを待つ間に薬種屋から黄蝋五十銭を求めて来たり、それを火の上で、墨を塗らない方の片面に塗拡げるのだ。その紙を二枚、蝋を引いた方を腹合わせにして貼り付ければ、それでもう出来上がったのである。それを二十枚か三十枚位に綴ってオートのように作り上げるのだ。
△収入
 綴り合わせた枚数によって、一枚二厘位の見返りで、代価を定めたならば八割位の手間が出る。ただしこの品は需要の範囲が広い代わりに、まとまった売り捌き口を得るは少々困難であろう。学校又は電話の使用者を訪ねて売り歩く方が却って有望である。三十枚綴じの物を一冊六銭とし、三十冊位は確かに売れるから、一日一円二~三十銭の収益はある。


 尚、右のほかに色々変わった商売があるけれど、要するに、東京で金を儲けようとするには、眼先の変わった、なるべく人の意表に出づるような、類の少ない職業を選んだ方が得策である。

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