この文章は、大正14年に発行された「上野恩賜公園動物園案内」の内容です。又、旧字や現代では使用しない漢字、旧仮名遣いなどは読みにくいために、現代様に改めました。
上野恩賜公園動物園案内 諸言
上野恩賜公園動物園は、元宮内省の御所轄で帝室博物館に属して居りましたが、大正十三年一月二十六日、皇太子殿下御成婚の当日、その記念として、宮内省より東京市へ御下賜になったものであります。
この動物園は明治十五年創立で、その頃は小規模のものでありましたが、その後、長年月の間に、追々と場所を拡げられて陳列生活物も漸次に増え、現在の様に拡張せられたのでありますが、この後とても尚出来得る限り発展を期するのであります。
動物園の所在地は、上野恩賜公園の西の方に当たって居りまして、往昔、清水谷と唱えられた處で、東の方には東照宮が鎮座せられ、西と南は往来を隔てて下谷区の市街に続き、北の方は東京美術学校に隣り合って居ります。
出入りの門は表と裏とにありますから、坂本、浅草、上野広小路方面から、上野恩賜公園を通って来らるる方は表門から。本郷、駒込、根津、谷中方面、又は電車で不忍池畔の東照宮下停留場に下車した方は、裏門から這い入るのが最も便利であろうと思います。
表門でも裏門でも、入り口の側には入場券を売って居りますから、普通又は団体の御方は、入場券をお求めになったら、入り口の守衛人にお渡しになれば、直ちに入場することが出来ますし、特別入場券御持参の方は、直ちに入場券を守衛人にお示し下されば入場が出来ます。
また学校団体は無料で入場が出来ますから、売札所に立ち寄らず、直ちに出口の守衛人に申し込み、学生観覧証を請求すると、観覧証と同時に入園の注意書を出しますから、指導者はその注意書を御一読の上、学生に注意の趣意を訓示して、入り口の方から入場せらるれば宜しいのであります。門を這い入りますと案内として、園内陳列の生活物の所在を示した掲示がありますから、巡回する時に思い出せる様に、ゆっくりとご覧になったら宜しいと思います。
尚、ここに申し上げたいのは、生活物の居所の番号順に見て廻るには、表門から這い入ると第一号から順々に見られる様になって居りますが、もし裏門から這い入りますと、第二十二号と第二十三号室との間に出ますから、其の番号を遡って見て頂くか、又は順に見て頂くようになって居りますのと、それから今一つお断りして置きたいのは、園内を見終わりまして退園なさるのは、表門からでも裏門からでも御随意である事であります。
表門を這い入り案内の掲示を見てから右へ行くと、第一号、おうむ室であります。