この文章は、昭和14年に刊行された「全日本国力総動員」の内容です。又、旧字や現代では使用しない漢字、旧仮名遣いなどは読みにくいために、現代様に改めました。
広島県
「主要都市素描」
広島市は浅野氏42万6000石の城下として繁栄し、人口34万2000、阪神以西の最大都市である。市は由来海陸交通の便よく中国交通の要路に当たり、政治、経済、教育、交通の中心をなし、県庁を始め第五師団司令部、広島控訴院、広島文理科大学、其の他、諸官公署が密集している。産物には清酒、傘、縫い針、缶詰、牡蠣、海苔等があり、市内及び近郊に広島城、泉邸、頼山陽宅跡、国泰寺、広島別院、饒津公園等の名勝旧跡が頗る豊富にある。
呉市は瀬戸内海に臨み、風光明媚な都にして、陸海交通発達し、人口23万余を有している。市内に鎮守府、呉工廠、海軍技手養成所、海軍潜水学校、呉海兵団等があり、近時、海軍拡充に伴い代表的近代都市として活況を呈し、清酒、煎餅、団子の名物がある。
福山市は大正七年に市制施行。現在人口6万を有し、中国有数の工業都市として目覚ましい躍進を示し、綿糸、紡績、染料、削鰹、漁網、製紙、護謨製品、畳表、味噌の製造並びに鉄工業が盛んに行われている。
尾道市は瀬戸内海に面し、風光絶佳の商港である。明治31年市制を布き、更に昨春、隣接町村を合併して大尾道を実現し、人口5万を有している。主要産物には花莚、畳表、酒、鯛等があり、近年の貿易総額輸移出総額1億3500万円に達している。
三原市は昭和十一年に市制を布いた振興工業都市で、人口4万余を有し、土地の広大と水陸交通の利便、並びに用水の便と相俟って、海岸線一帯は工業地来をなし、人絹、絹糸麻糸、セメント、石油、酒造の諸工場が並立し近代工業都市として頗る活況を呈している。内海屈指の良港、糸崎港は築港の完備と共に6千トン級の船舶が自由に接岸でき、糸崎駅と相呼応して陸海交通運輸の便備わり、振興三原市の発展、益々期待されている。