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ノスタルジック解説ブログ

父島よ、さらば【大正15年「趣味旅行」より】

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父島よ、さらば【大正15年「趣味旅行」より】

この文章は、大正15年に刊行された「趣味旅行」の内容です。又、旧字や現代では使用しない漢字、旧仮名遣いなどは読みにくいために、現代様に改めました。


父島よ、さらば

 大隅丸が明朝入港するという噂をしている。今夜はゆっくり寝ておこう。夢の中に歌が聞こえる。
「かいを片手にあか取さげて、向島通いの程のよさ。」
頭を上げると月は旭山の彼方から出た所、埠頭の広場で踊りが始まっているらしい。思えば今日は七月十三日・
「姿で見なされ声でききなされ、歌の文句でさとりなされ。あッ スッチョンスッチョンスッチョンスッチョン・・・」
歌の文句は再び夢の世に続く。

 ポーッという句的の音に夢を破られた。大隅丸が入港したのである。今日の午後三時出帆、帰港に就くという知らせが来た。措葉の荷造り、土産物の調達、かなり忙しい。三時前乗船する。

 中佐殿が待ち構えている。S君が母島に滞在しているとかで汽船に居ないのは何だか物足りない気持がする。帰りは酔わずに済ましたいものだ。甲板に立ってうすれ行く島を眺める。この夕、初めて船の飯を食った、何だかまづい。やはり飯を食わずにカステラと西瓜ですごすことにしよう。船はゆれない。よく眠れて何よりも喜ばしい。

 開けて十五日も天気晴朗にして波高からず、終日甲板で暮らす。往航にはベットの中に呻っていた連中も盛んにデッキビリャード等をして騒いでいる。S君から「大菩薩峠」を借りて読んでいると知らぬ間に日が暮れた。この日は終日陸を見ず、唯何か知らぬ鳥が一羽低く飛んで行くのを見た。夜は甲板に円座をつくって勝手な熱を吹く。何を迷ったか飛魚が一尾甲板に飛び込む。


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