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ノスタルジック解説ブログ

冒険談か【大正15年「趣味旅行」より】

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冒険談か【大正15年「趣味旅行」より】

この文章は、大正15年に刊行された「趣味旅行」の内容です。又、旧字や現代では使用しない漢字、旧仮名遣いなどは読みにくいために、現代様に改めました。


冒険談か

 兄島から父島の西側を通って南島に向かう。南島は周囲五十町に足らぬ小さな島であるが、その五十町の海岸に船を漕ぎ寄すべき磯はない。表に出ると万里の浪は岩に砕けて飛沫は天に沖している。裏に廻ると南島との間に挟む瀬戸を去来する激潮に船は断崖に打ち付けられ、微塵に砕けんばかりの勢い、私は冒険世界に出て来る南洋の恐ろしい島々を始めて諒解することが出来た。

 島をめぐること一周、遂に意を決してボートを下ろし、石門の険を冒して、上陸することに決する。巨人の斧で切り削られたるが如き断崖の一か所に幅二間、高さ二丈に足らぬ石門があって怒涛を吞吐している。その激浪に乗って石門を潜ろうというのであるから、危険なことは申す迄もない。誤って波の背に乗りそこなえば最後、引く潮に巻かれて底知れぬ魔の海に呑まれて仕舞うか、寄せる浪に打ち付けられて、船と共に砕けねばならぬ。仕方ないから舷を掴んで運を天に任せていると、山のような大浪が寄せて来た。危機一髪、ボートは熟練なる水夫の腕によって無事石門をくぐった。

 島の中は極めて静かである。珊瑚の粉末から成る砂は純白に光って目が痛い位、磯松磯薊、もんぱ等肉の厚い海岸植物が茂っている。島の一隅に入江がある。鮫が淵と言うそうだ。丘の上から見下ろすと全く鮫が泳いでいる。正覚坊が時々首を水面に出し空気を吸っては又沈んで行く。岩の上には飛びはぜがピンピン飛び歩いて真紅な蟹をパクリと一口に咥えて放さない。向かう砂原には正覚坊の卵を産みに上がった足跡がある。なんだか冒険世界か探検談にでも出て来そうな島である。



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