この文章は、大正9年に刊行された「別府温泉案内」の内容です。
又、旧字や現代では使用しない漢字、旧仮名遣いなどは読みにくいために、現代様に改めました。
海岸砂湯
別府港桟橋の横と、波止場北川の二ヶ所にある海辺の砂湯は確かに天下一品であります。
干潮の際、海辺の砂原を一尺ばかり掘れば、こんこんとして湧き出る、綺麗な温泉、これを利用した砂湯、天然の浴場であります。
海岸の波打つ際には、日除けの天幕を張ってあり、ここに砂湯付きの湯女が幾人もいまして、まず第一に身体を横たえるだけの穴を掘って、菖蒲で編んだ筵を敷いてくれます。その上に臥せると湯女が胸から足まで総身に温砂を幾度も取替え、頭は始終冷水で冷やしてくれます。
十分、二十分と海水に適合された温泉の砂に籠って、礒打つ波の音を聞きつつ、遥かの沖に往き交う鷗、小鳥等を眺めつつあれば、いつしか身も世も忘れ、それはそれは得も言われぬ爽快な気分になります。
実際この味は実験した人でなければ分かりませぬ。
砂湯の設備
波止場北側海岸に大正八年に新築した高等砂湯(上がり浴場)がありまして、一等、二等に分かち、一等の入浴料金三十銭で、砂掛湯女付きにて浴衣を提供し、浴後二階の見晴らしの良き休憩室に案内し、茶、菓子、名所絵葉書等を出します。二等は入浴料金二十銭で、やはり砂掛湯女が付き、浴衣を提供し、浴後階下の休息所に案内しコーヒーを出すことになっています。
海岸砂湯入浴時期は毎年四月頃から九月の末頃まで毎日干潮の時入浴します。入浴時間は二十分ないし三十分を適度とします。
上がり湯付き高等浴場外の海岸砂湯は入浴無料で、自由に各々傘などを日覆いにして入るのであります。