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アイヌ神話・人間祖神【大正13年 「アイヌ神話」より】

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アイヌ神話・人間祖神【大正13年 「アイヌ神話」より】

この文章は、大正13年に刊行された「アイヌ神話」の内容です。
又、旧字や現代では使用しない漢字、旧仮名遣いなどは読みにくいために、現代様に改めました。



人間祖神

チキサニカムイ降臨


 コタンカラカムイは、かくして天地を創造したのであったが、そこにはまだ人の住まうに不適当な事があり、多くのウエンカラカムイがはびこっていたので、どうにかしてこの世界を榮しめようと考えた結果、その多くの子供の中から、最も賢いチキサニカムイ(火の樹の女神)を人間の国に天降らしめる事とした。その時シニシコロカムイ(真天の神)の弟、ポニウネカムイは、チキサニカムイを非常に可愛がって、毎日毎日、チキサニカムイの処を訪ねては親しい物語をしていたので、チキサニカムイはオイニウネカムイを力に思い、国造の神の命に従って人間の国に降って行った。

ところが、チキサニカムイが選ばれて一番先に人間の国土に天下って行った事を知った他の神々は、非常にそれをうらやましく思い、チキサニカムイをにくむと同時に、チキサニカムイを可愛がった真天の神の弟なるポニウネカムイをも非常ににくんで、エンカムイ(悪神)や、ペケレカムイ(善神)どもが八方からチキサニカムイとポニウネカムイの処に押し寄せてきた。

ポニウネカムイは、これ等の多くの神々と県名に戦ったので満足に食事をとる事も出来ない位であった。そのため少しのひまを見つけると、誰の家にでもかまわずに押し入って自ら焚いて食をとるのであったが、忙わしい時には椀で食べるひまさえなくて、鍋を胸元にまで抱き上げて、鍋に口を入れて食べねばならない有様であった。

戦いは初め、ポニウネカムイの方が負けそうであったが、国土に火をかけたので、エンカムイもペケレカムイも、これは敵する事が出来ずに、遂に全く討ちやぶれてしまった。戦いに勝ったポニウネカムイが休んでいる処へ、さきに天下ったチキサニカムイが訪れて来て、何くれとなく世話を見てやっている中、何時かチキサニカムイは、ポニウネカムイの子を妊娠する様になった。

生まれた子供は、オイナカムイと呼んだ。その後ポニウネカムイとチキサニカムイとは夫婦仲良く人間の国に住まって、オイナカムイの成長を楽しみに待っていたが、オイナカムイがだんだん大きくなってきたので、ポニウネカムイは、神の国に再び昇天してしまった。

一方、ポニウネカムイの長兄神なるキヤンネカムイは六人の女の子供を生んだ。第一の子をニサツツアオツカムイ(朝明星の神)、第二の子をアンノシキカムイ(夜中星の神)といい、第三の子をアロヌマンカムイ(暮明星の神)といい、第四の子をクンネチユプカムイ(月の神)といい、第六の子をトカプチユプカムイ(日の神)と呼んだ。(第五の神の名は、アイヌも知るものがない様である)

ポニウネカムイと、チキサニカムイとの間に生まれたオイナカムイは、非常に大切な神であるために、世のつねの神々に育てさせてはもったいないという処から、このキヤンネカムイの末子であるトカプチユプカムイが、天下りしてこれを育てる事となった。

オイナカムイは、トカプチユプカムイの親切な養育によって、日増しに成長した。日の神は、毎朝、夜明けとなると手を洗い清めては、ねんごろに調理をしてオイナカムイをやしなった。アウタケウスツ(家の背戸にいつく神、祖神または産土神の類)は、鹿や魚を、どしどしととって来た。こうしている中にオイナカムイは相当成長したが、ある日、トカプチユプカムイは、オイナカムイに向かって、

「尊き神子よ、山に行って、鹿をとりて来たまえ。愛するおん身自身の手によって親しくとりたる鹿を、渡しはたべたいと思う」

と言った。オイナカムイは、早速これを承知して、小袖を裾みずかに着け、金の合帯をもって胴をして、負い縄を打ったやなぐいを背にし、櫻の皮をまいた弓をもって出発した。今まで家宝の数々を散りばめた高床の上にのみ居て、いっぽも戸外に出た事がなかったオイナカムイは、初めて戸外に出て自分の家を振り返って見ると、草屋のふぎぎわには、金の平金が折りかぶさって、輝かしい光がまばゆいまでであった。オイナカムイは今更の様にその立派な住まいであるのに驚くのであった。

川伝いに山路に入り、草の深いのを押し分けて、遥かなる上流に行くと、大い川の川の中央に、白い平の岩があった。その岩がまた非常に立派なものであったために、オイナカムイはしばらく立ち止まって、神の帰り来る処ではないかしらとみとれていた。

すると川伝いにどこからか川せみは一羽とんで来て、その岩の上に、川上の方に向かって止まった。と思うとこれも川伝いに一羽の川烏が来て平たい岩の土にとまった。負い名噛む伊波不思議に思ってぢいっとそれを見つめていると、その川せみと川烏とは何時の間にか二人の少女となった。二人とも小さいぬひとりのついた衣を手にもっていた。川せみの持っていたものは、もう少しで出来上がるまでになって居り、川烏の持っていたものは、半分まで造り終えていたものであった。オイナカムイはあまりの不思議さに、なおもぢっとそれを見つめていると、二人の少女は語りだした。川せみの女は、

「ソーコロカムイ(瀧の神)の妹よ、おん身は山から降りて来て、神々の中に何か変わった事はありませんでしたか」
と川烏の女にたずねた。

「何も別に物語る様の事もなかったようです」
と川烏の女は答えて、すぐに語をつぎ

「ワクカウシカムイ(水の神)の妹よ、おん身は浜から来て何か神々のうちに物語る事はありませんでしたか」
というと、川せみの女も

「別になかったようです」
と答えた。すると、山から来たソーコロカムイの妹という川烏の女は

「そんな事を言いながら、おん身の手に持っている小さいぬひとりの衣は、誰にあたえる童衣なの?」
と問うた。川せみの女は

「大飯食らいのオイナカムイを私はすきですから、この童衣をおくろうと思ってつくっているのです」
と答えてすぐに

「私の事ばかりいわないで、おん身こそ、その童衣は誰におくろうとなさるんですか?」
と問いがえした。川烏の女は

「私は神々の中で誰が一番いい男かと思って、いろいろとさがして見ましたが、やっぱし大飯食らいのオイナカムイが一番いいので、これをその神におくろうと思っているんですよ」
と答えた。


 この二人の女の会話を聞いていたオイナカムイは女どもに馬鹿にされたのを非常に怒って、矢で射殺してやろうと思ったが、こんな事で怒っては、値打ちが下がると思ったので、知らぬ振りをして、そこを通り過ぎてなおも山奥へと川に添うて上って行くのであった。

ややしばらく行くと、遥かに遠い水上の山のがけの頂に大きい男鹿が、角を高くおこしたり打ち伏せたりして、静に草を食っているのを見つけた。オイナカムイは抜き足差し足、鹿に近寄り、矢をきってはなった。矢は見事あやまたず、胴の上にづぶと的中した。鹿は驚いて逃げ出したが、毒が身体中にまわって、すぐに打ちたおれてしまった。

オイナカムイは喜び勇んで近寄って見ると、鹿は目をばっちりと開いていた。そうしてオイナカムイの顔をぢっと見つめているのであった。オイナカムイは、この鹿までも自分の噂をどこからか聞き込んで来て、それでこうして侮って見つめているのだろうと思ったので、非常に腹を立てて、上足をつかみ上げて太い樹に力いっぱい打ちつけ打ちつけした。

けれど鹿はなお、瞳を見開いてじっとオイナカムイの方から見つめているのであった、幾度木に打ち付けても、同じ様にいつまでも瞳を見開いているので、オイナカムイは初めて鹿は死んでも目を開いているものだという事を知ったので、今まで力をつくして幾度も死んだ鹿を樹に打ち付けた事を馬鹿馬鹿しい事をしたなと思って、用意の敷物を広く延べ、先ず上足を立て、下足を立て、刀を押し立てて皮をはぎとり、全部の肉を負い縄にかけて背負い、もと来た途を川の流れに従って来た。

すると行き路の時見た川の仲の広い平たい岩の附近に来ると、先刻の川せみ、川烏の二人の女は見えなかったが、小さいぬひとりの衣が、どこからともなく、オイナカムイの背中にぶら下がって来た。それを見たオイナカムイは、さっきの二人の女が手に持っていたぬひとりの衣物である事に気がついたので、急に腹立たしくなっていとりおとし持っていた刃で、ずたずたに引き破って捨ててしまった。


 オイナカムイが家に帰って来ると、トカプチユプカムイ(日の神)は、門に出て手を打って喜び、オイナカムイの勇気をほめそやした。背戸の神アウタカムイも戸外の神ソイタカムイも非常に喜んだ。そこでオイナカムイは皆と一緒にそれを食べる事となったが、アウタ、ソイタのカムイと、オイナカムイとはその肝臓を刀を以って切り取り生のままで食った(アイヌは鹿の肝臓は生で食うものとしてこれを賞美している)。トカプチプカムイは肉の白身のところと、肉の赤身のところとを、鍋の中へ投げ入れて調理をして食べた。

食事がすんでしまうと、トカプチユプカムイは、奥の寝所に行き、祖先から女にゆずり伝えた古い宝袋を取り出し、中から日輪の象を縫い出した神衣を取り出して着、頭には王者の冠を頂いて、婦人の持つ刀をふところに差し、柄の短いほこをつき立ててオイナカムイの前に現れた。

オイナカムイが不思議に思ってこれを見つめていると、その頭、その身からは光がきらめき立ってまぶしい程の美しさであった。しばらくすると、トカプチユプカムイは、オイナカムイに向かって

「私の養いたてまつる尊き神よ、人間の首長であるあなたに、今こそ私はあなたの祖先の物語を申し上げたいと思うのです。そのため私は礼を正しゅうして、この通り物の具をつけました。あなたはさっき山に狩にお出かけになって、二人の少女におあいになった事と思います。それは、実は、私があの少女たちをつかわして、あなたの事を物語らせようとしたのでした。」

と語りだすのであった。オイナカムイはそのあまりに意外な話に驚きながらも、なおもトカプチユプカムイの話を聞き入っていると、コタンカラカムイが初めてこの世界を創造した時から、オイナカムイがポニウネカムイと、チキサニカムイとの子供であって、トカプチユプカムイが、それを育てるために天下った事と、こまごまと語るのであった。

初めて聞いた自分の事、自分の父母の事、祖先の事に、オイナカムイは非常に驚かされた。また今まで自分の姉であるとばかり思っていた人が、尊いトカプチユプカムイであるにも驚かされずには居られなかった。そうしてさっき出猟の時の二少女が馬鹿にしていったと思った「大めし食いのオイナカムイ」の言葉が父神なるポニウネカムイの奮戦によって、生まれた言葉である事も知る事が出来た。一枚の物語を話し終わったトカプチユプカムイは更に言葉をあらためて、

「私は、私の役目を無事にはたして、おん身のこの生育を見る事は非常にうれしい事であるが、も一つおん身のために話しておかねばならない事がある。それは外でもないが、おん身の父親ポニウネカムイ、母親チキサニカムイと、それからこの川尻なるチワシコロカムイ(川尻神)の親とが、かたく婚約した女がある。それはチワシコロカムイの妹神であるが、人間世界のはてのシノツペツという郷にシララ、ラメトク(いわおの勇士)というツムンチカムイ(魔神)が六人居り、その妹もまた六人の兄に劣らぬ魔女であって、おん身の妻となろうと願っているのであるが、魔術によって、おん身とチワシコロカムイの妹神との間に婚約のあるのを見抜き、ねたみ心から、兄の魔神と力を併せて、ある日チワシコロカムイの処を襲い、その妹をさらって逃げてしまったのである。

チワシコロカムイは非常に悲しんで、妹神をどうにかして奪いかえそうとしているが、。どうもよい方法がないといって困っているのである。シノツペツの魔神どもは、チワシコロカムイの妹の逃げかえるのを恐れて、垣根を六重に立てまわし、その奥には金の垣根を六重に結び、更にその奥にはいわおの垣根を六十二笠ねて、その中に常の箱を六箱、金の箱を六箱、いわおの箱を六箱打ちかさねて隠しておくのである。しかも魔神たちは折もあれば、チワシコロカムイを攻め滅ぼし、あまつさえ、この世界の王なるおん身の所にも押し寄せんとしているのである。

この不適な魔神ともを打ち滅ぼし、チワシコロカムイの妹を取り戻すのは、お身をおいては別にないのであるから、おん身はこれから早速、そのシノツペツりに攻め入らねばならないのである。そうして彼の地に攻め入ってからの千歩右派、こうしなければならない。

先ず、おん身は魔神どもと勇ましく立ちあい、決してひるむ事なく、立木とともにたたき斬り、立木とともになぎ倒して、一寸の隙をも見せてはならない。魔神のおん那覇、どんなにたたかれ、どんなに斬られても、その傷を自らすぐに治してしまう術を使うであろうから、おん身は六度魔女どもを斬りつけたら、きっと油断なく身を構えて居なければならない。もしその後におん身が打たれる様な事があると、おん身は戦いに敗れる事になるかも知れないのである。おん身の戦がはげしくなっても、在天のおん身の父は、おん身にこの世界を統治すべき重い責任と光栄とを興えているのであるから、決して救いには来ないから、おん身は父の援けの郡の来る事などを力にせずに、おん身ひとりの力によって、おん身自身、魔神どもを打ち破る決心でなければならない。

しかしその戦いの最中に、天の上から神のゆりかごがさげられるであろう。そのゆりかごの雲の中には小人等が乗って、女のうた、酒の歌を美しい声でうたって、戦いの上に手伝いをするであろう。またニシカンチカプ(天津島)も天下っておん身の戦いに加勢するであろうから、決して心配はないからすぐに出発したがよろしい」

 というのであった。オイナカムイはこれを聞いて、早速に出発しようとすると、トカプチユプカムイは、金でつくった鎧、甲を取り出して、オイナカムイに着せ、裾のこげたアッシをもつけさせて、

「この裾のこげたるアッシ、金の鎧、金の甲こそは、おん身の父親、ポニウネカムイが悪神どもを討ち滅ぼし、チキサニカムイ(火の樹神)と婚した時につけたるもので、大切なものである。」
と話した。



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