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ノスタルジック解説ブログ

アイヌの現代風俗【明治42年 「樺太探検記」より】

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アイヌの現代風俗【明治42年 「樺太探検記」より】

この文章は、明治42年に刊行された「樺太探検記」の内容です。画像はアイヌを扱った絵葉書からです。
又、旧字や現代では使用しない漢字、旧仮名遣いなどは読みにくいために、現代様に改めました。


アイヌの現代風俗


六日間の滞留によって大分、アイヌ風俗について知る事を得たから、ついでにその概略を記すころにしよう。


顔と頭
 先ず第一に眼に入るものは、顔と頭であるが、男子は頭髪の前半を剃って後ろ半分を長くし、恩那覇頭髪を真ん中から両方へ分けて、頸部まで垂れ、その先端を西洋流に捲縮せて両頬をおおえるなど、なかなか味をやって居る。男には定まった帽子はないが、女は鉢巻の如き物に南京玉、その他種々の装飾を加えた帽子を戴いて居る。これを「ベトアエ」と称す。色は黒だ。又、中年以上の女には、往々、唇の上下に入墨をしたのが居るが、近来、大いにこの風習は廃った。今一つ著しく予の注意を惹いたのは、彼等に禿げ頭の多いことで、三つ四つの子供に於いてすら、寺内蝿スベリー式に、つるつるに禿げたのを見かける。彼の怖るべき禿頭病は、今や彼等の間に猖獗を極めつつあるのである。

衣服
 北海道アイヌは「オヒョウ」又は「シナ」の木皮を材料として「アツシ」と称する布を織って製つのが、樺太アイヌは蕁麻の繊維にてこれを織る。蕁麻は山間の水辺に生ずる麻に似た草で、これを刈り取って衣服に仕立て上ぐるまでの仕事はすべて、婦人の責任範囲だ。しかし、衣服は必ずしも蕁麻のみにて造るのではない。近来は蕁麻と木綿を合わせてつくる物、木綿にて作る者もあり、洋服の古手を着て歩く者もあるが、彼等固有の衣服は袖もなく、襟も無い。
 そうして男の衣服は脛を以って限りとしてある。模様は例の未開人種に通有の相対的模様で、中心線より左右は全く相同じく、格子状を成せるものもあれば、唐草模様もあるが、染色の原料モもたず、染色術も知らない彼等は、絹糸もしくは木綿糸でこれらの模様を縫い付けるのである。帯は男は細い布を用い、女は金属製の環を付けて装飾とした皮帯を用う。又、女には裾の周囲に之と同様の装飾を施したるものがある。

履物と小刀
 脚絆は男子の常に用いるところにして、平常用の物には、衣服と同様の縫い付模様あり、又平素トドの皮、又は酒、イトウ等の魚皮にて作りたる長靴を履くが、夏は裸足で倹約して居る連中もある。老若男女共に必ず携えて居る物は、小刀である。これを「マキリ」と称して腰にぶら下げて居る。未婚の女子は只鞘のみを携う。又、小さな男の子には、三角形の小布を頸に垂れて、それに彩色ある南京玉を付けて装飾してあるのを見受けたが、女の子には耐えて斯かる装飾を施さない。

食物
 食物は、例の鱒の干物が主食物で、鮭及び米をも併せ用い、これらの食料欠乏したる時は山百合の根を掘って喰う。又、内地人の食卓に味噌汁が付き物になって居る如くに、彼等の食卓には必ずその最大嗜好物たるアザラシの油が控えて居る。そうして鱒、その他の魚の干物に付けて食べるのみならず、彼等は焚き立ての温かい御飯に、黒いどろどろしたその油を注いで舌打ちならして居る。又、「オハオロ」という彼等特有の料理法がある。これは、乾し鱒と昆布をアザラシの油で煮たもので、米の得られなかった頃には、これを常食として居たものだ。
 食器は彼等固有の物には、木製の「チョイネップ」と称する食器とヘラとにて。「チョイネップ」に二種あり、一は円く、一は細長い。円いのは茶碗で、細長いのは皿だ。その他、帆立貝を拾ってきて油皿、又は食皿として居る。尤も近年は陶器製、硝子製の皿、鉢、コップ等をも持っている。


 酒と来たら全く眼がない。酒宴などの開かれた場合には、二日二晩とか、三日三晩を飲み明かすのが例で、酒量もどの位が極量なのか殆ど解らない。且つ、大きな塗椀に並々と注いであおるのだ。この塗椀は家祖伝来の珍宝で子々孫々、飲み継ぎ飲み伝えて以って誇りとしている。酒を飲むには儀式があって、先ず左手にて酒椀を胸の前に捧げ、右手に彫物したるヘラを持ち、ヘラの一端を酒に浸して二度ばかり滴を切る様な真似をする。これは彼らが信ずる「ウンジカムイ」、「ソーパカムイ」二神に初穂を供えるのだそうだ。しかる後に於いて、ヘラにて徐に口髭を掻きあげて飲む。

家屋
 家屋の材料は、丸太とトド松の皮とにて、丸太は柱、又は梁となし、木皮は板の代用にして居る。入り口は家の正面、又は側面へ、別に突き出して設けてあって、扉代わりの筵を排して入れば、更に一個の出入口ありて、同じく筵を吊ってある。入り口の左右は台所で、家の中央には一個、もしくは二個の炉を設け、ここで冬季、暖も採れば煮炊きもする。炉の正面は主人席で、その向こうが婦人席、左右が客席だ。主人の後ろには幅五尺あまりの板張りの床があって、家財を並べてある。敷物はアザラシ、トナカイの毛皮、及び「ルサ」と称するゴザで、「ルサ」は時に壁に立てかけ、屏風代わりに用いる事がある。





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