この文章は、大正15年に発行された「上毛の温泉」の内容です。又、旧字や現代では使用しない漢字、旧仮名遣いなどは読みにくいために、現代様に改めました。
(二)伊香保の名勝①
(1)榛名山・榛名神社
伊香保を訪ねた人は、必ず一度は行くべきところである。他の名所はどうでも、ここだけは、行かなければ、伊香保に行ったとは云えないと云ってもよい位である。
湯元から二里余登れば、榛名神社に詣でることが出来る。極めてゆるやかな坂であることから、徒歩でもさして困難ではない。併し徒歩を望まぬもののために、馬も山駕籠も備えてある。
神社に行く途中に榛名湖がある。道は、榛名富士の裾をめぐる伊香保平(沼の原)と言う山の中には珍しい二十町程の草原を抜けて行く。百合や杜若や、その他とりどりい美しい花野を抜けて、鏡のような湖を見出すのは、実に壮快である。夏は数万の蛍が、山神に青い灯を捧げる。冬は満眸一白の鏡と化して、見事なスケート場となる。清列な水を湛えた湖を右にして、小坂を登れば天神峠で、眺望絶佳、朱塗の一の鳥居が立っている。ここから道は下りで、十七町一息に榛名神社に着く。不思議な、そして美し宮である。見上げる様な大岩がのしかかって覗き込む所に、半分造りこまれた宮であるが、その外に、奇石、怪岩人を驚かすものが多い。鴨が首を伸ばしたようなもの、筍のように無暗に突っ立ったもの、虹の様に天空に横にかかったもの、こんな妙なものばかり、どうして出来たろうと、造化の意中を疑って見たくもなる。
湯の町から往復半日の行程であるから、訪れるにも、雑作がない。健脚の人は更に湖をめぐる峰々を究めるもよかろう。
(2)沼の原の県立春名公園
前に述べた、伊香保から榛名湖に至る途中、榛名富士の裾にある伊香保平、即ち沼の原から榛名湖にかけて、雄大な県立公園を建設すべく計画中である。これが完成の暁には、伊香保もいよいよ世界的温泉氏となり、榛名富士、榛名湖、沼の原全部を包含した、理想的遊園地が出来るだろう。
田村博士の手になった計画を記してみよう。
第一期計画としての道路および交通施設は、自動車道として従来伊香保から榛名への道路は改良の見込みないので、渋川から伊香保に入る自動車道を物聞山麓に接近迂曲し、それよりケーブルカーにより約百五十尺登り、上の頂上緩斜地に出で、南に行き西に向い、二つ獄の東麓から、たかの巣上手に出で、それより大体旧道によりヤセボネ峰に達するものであるが、右の中、ケーブルカーの終点上の山は眺望絶佳である。又、第二期計画としての自動車道は、高崎市から室田榛名山町を経て公園の西南に進むのと、公園の浦道によるものと、高崎から箕輪町を経て松ノ澤峠を越えて盗難から入園するのと、中之条町から湖畔に出るものの三路線である。しかして公園の道路は、探勝に変化を與えるため、沼の原に縦横に乗馬道および歩道を設ける。
その他の設備としては、各種宿泊休養施設をなし、先ず湖に面して水辺から十間はなれて建物を設け、湖辺には柳・白樺・櫻等を植樹し、榛名富士の南西麓にかけては、散歩道路と共に公園の中心地としての施設をする要があり、ホテル・簡易貸別荘・クラブ・テニスコート・プール・公衆浴場(鉱泉湧出を利用)・水辺には水泳場・船着き場・釣魚桟橋等を設け、西麓にんは野営地、湖に添うて西より北にかけて別荘とする。
蛇嶽の南方には乗馬練習場を設け、関東乗馬の中心地とする。合宿所を建て、冬季は相馬山スキー練習場のためにも利用する。この外、高山植物見本園・樹木見本園・ゴルフ場等も設置し、富士および
湖の一週自動車道等をも設けるはずで、右による第一期計画は近く着手することになっている。