この文章は、昭和12年に発行された「小樽市の史蹟名勝天然記念物」の内容です。又、旧字や現代では使用しない漢字、旧仮名遣いなどは読みにくいために、現代様に改めました。
オタモイ (市内バス及び郊外バスの便あり)
市の西郊約六キロの地で、地形には別項に述べた赤岩の連続である。即ち附近一帯は海蝕によって安山岩及びその集塊岩が露出したものであって、屏風の如き絶壁の岩石が直ちに海に迫り、文字通りの奇岩懐石に富む景勝地をなしている。
オタモイの地名はアイヌ語で砂湾を意味すると言われ、その一分湾入した砂浜があるため、昔は漁場をなしていたのであるが、市内、蛇の目料亭の主人加藤氏が附近の景色を取り入れた遊園地化を計り、昭和五年その工を起こし、同八年に竣工した。これが所謂オタモイ遊園地で、海岸に沿って山腹に約八百メートルの道遥路を作り、平地の部には食堂・演芸場等の設備をなした。この地より近くは眼鏡岩等の奇勝を眺め、遠く忍路・積丹の半島を望み得て、小樽市民にとっては絶好の遊覧地となった。
この遊園地の西方にはオタモイ地蔵尊がある。伝説によれば、約九十年前(弘化四年)この濱に妊娠せる一婦人の溺死体が漂着したのを不憫に思った附近の漁師たちが丁寧に葬り、翌年にはこの漁場支配人、西川徳兵衛が一メートル程の地蔵尊を難波に註文して、この夫人の供養として建立したと言う。これが現在の物で乳の出ない婦人に霊験のあるとの事であるが、一般の願意も届くと言うので参詣客の数が多い。